小林製薬「ナイシトール85」の大ヒットを密かに心配する老婆心

2006年、「メタボリックシンドローム」が流行語大賞にノミネートされ、その代表的商品ともいえる小林製薬の「ナイシトール85」がヒット商品番付に顔を連ねる・・・社会的な追い風や小林製薬の秀逸したマーケティング力のなせる業であったが、漢方薬を少しかじった老婆心薬剤師としては、その服用に関して、多少の不安を感じざるを得ません。

【スポンサードリンク】
【スポンサードリンク】

漢方薬は「証」が合わないと効果がない?副作用が出る?


太鼓腹でも虚弱体質で発汗の多い胃腸の弱い人は要注意


「ナイシトール85」という医薬品の処方内容は、実は漢方薬の「防風通聖散」。過去に、カネボウ薬品が「コッコアポ」というブランドでヒットさせた商品と全くの同一処方です。もちろんコッコアポも、売れ筋商品として、現在も販売しています。


ご存知かもしれませんが、漢方薬の考え方の特徴は、その人の体全体の状態をみるということです。つまり、体全体の調子を整えて、特定部位の病気を治していくという考え方なのです。したがって、病気の症状だけでなく、一人ひとりの体質も事前に十分に判断し、処方が選択されなければなりません。


このような体の状態や体質をあらわすのが「証(しょう)」という概念です。このような考え方は、西洋医学が臓器や組織に原因を求めていくのとは対照的なのです。漢方薬の良さは、薬そのものよりも、証にもとづき「人をみる」という、その考え方にあるといっても過言ではないのです。


防風通聖散は、金時代の「宣明論」という古典書で紹介されている処方です。その名前は、主薬の“防風”と、聖人を意味する“通聖”にちなんでいます。


「証」でいうと「実証タイプ」のいわゆる体力のある太鼓腹の肥満タイプで、便秘がちの人に向く処方です。適応証(体質)は、実証(体力充実)、熱証(暑がり・のぼせ)、湿証(水分停滞)となります。少し簡単に表現するならば、体の熱をさまし、病因を発散させるような働きがあり、体の水分循環を改善し、便通をつける作用もあるのです。


防風通聖散には、“防風”や“麻黄”など病因を発散して治す発散性の生薬を中心に、熱や炎症をさますもの、便通をよくするもの、無駄な水分を取り去るもの、あるいは血流をよくする生薬などがいろいろと配合されています。これらがいっしょに働くことで、よりよい効果を発揮するのです。


但し、漢方薬といえども、副作用が全くないことはありません。防風通聖散の副作用としては・・・


【重い副作用】

□偽アルドステロン症(配合生薬の「甘草」の大量服用により、浮腫(むくみ)を生じたり血圧が上がってくる)〜だるい、血圧上昇、むくみ、体重増加、手足のしびれ・痛み、筋肉のぴくつき・ふるえ、力が入らない、低カリウム血症
□間質性肺炎〜から咳、息苦しさ、少し動くと息切れ、発熱。
□肝障害〜だるい、食欲不振、吐き気、発熱、発疹、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる、尿が褐色になる

万が一、咳や息切れ、呼吸困難、発熱、ひどい倦怠感、皮膚や白目が黄色くなる、といった症状が出た場合は、すぐ医師に連絡することが必要です。


【軽い副作用】

□胃の不快感、食欲不振、吐き気、吐く、腹痛、軟便、下痢
□動悸、不眠、発汗過多、尿が出にくい、イライラ感
□発疹、発赤、かゆみ


【服用に際し注意が必要な場合】

□虚証(虚弱、病中・病後の衰弱期)、発汗の多い人、胃腸の病気
□循環器系に病気または既往歴のある人(高血圧、心臓病、脳卒中)
□腎臓病、排尿障害、甲状腺機能亢進症のある人


配合生薬の「麻黄」には、心臓や血管に負担をかける交感神経刺激薬のエフェドリン類が含まれています。そのため、高血圧や心臓病、脳卒中既往症など、循環器系に病気のある(あった)人は慎重に用いる必要があります。


ここまで読んでいただいたあなたはどう感じましたか?


世の中の太ったすべての中高年男性をターゲットにして「おなかの脂肪」のみを強調しているマーケティング手法に違和感を感じませんか?


防風通聖散は、体力の充実している「実証」向けの処方です。したがって、体の虚弱な「虚証」の人、胃腸の調子の悪い人、また、発汗の多い人には向きません。たとえ、お腹が出ていても、体力がなく、寒がりで、皮膚の乾燥しやすい、下痢傾向の強い方が服用してしまったら、大変なことになるのです。


「ナイシトール85」は、約5ヶ月間で11億円の売り上げを達成したそうです。「初年度10億円でヒットといわれる市販薬市場で、当初4億5000万円に設定した売り上げ目標を、のちに22億円に上方修正」・・・


メーカー様へ−商売繁盛、大いに結構です!しかし、威勢の良い話の影で、「虚証の人が誤って購入しないように」と密かに願っている老婆心な薬剤師もいることを心に留めておいてください。

【スポンサードリンク】

2007年01月08日 15:07