15年度までに25%減の国策に異論の声?

2006年5月8日、メタボリック・シンドローム(内臓脂肪症候群)の中高年が、予備軍も合わせ約2000万人に及ぶと厚生労働省は発表しました。厚労省は、生活習慣病予防の柱として、その対策を前面に打ち出したわけです。40歳以上の健診と保健指導を強化し、2015年度までに予備軍と合わせて「25%減」の数値目標も掲げました。ところが、ここにきて診断基準の妥当性や治療のあり方を巡る論争が沸き起こっています。

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製薬業界の暗躍・学会の壁・・・そんなことはどうでも良い


男性85cm以上という腹囲基準の根拠は?米は102センチ超?


診断基準のうち、腹囲は、米国では男性で102cm超となっているのに対し、日本人男性は85cm以上と、かなり厳しく設定されています。逆に女性の基準が、日本人は90cm以上と米国人(88cm超)より緩やかなのとは対照的な数値です。

国際糖尿病学会基準腹囲 日本基準
アメリカ   欧州   南アジア
102 94 90 85
88 80 80 90

男性85cm以上という腹囲基準に異を唱える専門家がいます。


基準を決めた調査に関して、調査人数が数百人で少なすぎるとか、内臓脂肪面積を算出したのが危険因子の少ない人だったなどと指摘し、複数の危険因子を併せ持つ人のための診断基準データとして不適切などと主張しています。確かにメタボリック・シンドローム(内臓脂肪症候群)は、まだ各国で診断基準が異なるなど、医学的な評価が定まっていない面もあるのは事実です。


しかし、米国人と日本人の体格の差は歴然としています。米国では体重が100kg、150kg程度の男性は少しも珍しくはありません。その事実を考えず、単純に数値だけの比較をして「厳しい」というのは、全くナンセンスな話だと思います。それ以前に、異を唱える人に再認識してほしいのは、日本は世界の中で最長寿国だということです。根拠の検証は賛否両論あるとしても、高い医療水準の日本が決めた基準を信頼しても悪くはないのではないでしょうか。


製薬業界が「よだれ」?薬漬けの心配?


厚労省は、「内臓脂肪を減らすのは、運動と食生活の改善が基本。薬を第一に勧めるものではない」と強調していますが、この病気に対する製薬業界の関心が高いのは事実です。血圧、血糖、脂質値が高くなるこの症候群では、降圧薬、血糖降下薬、高脂血症治療薬などを同時に使うこともできますので、製薬会社にとって、これほど「ありがたい病気?」はないというのです。


予備軍を含め約2000万人もいると厚労省が認めた結果、業界にとっては巨大なマーケットが出現したも同然なわけです。製薬会社協賛のセミナーが学会などで、さかんに開かれるようになってきています。


しかし、結論からいうといくら薬を飲んでも、肝心の内臓脂肪は減らないのです。


血圧や血糖値は、海面に出た氷山の一角、内臓脂肪という氷山の本体をそのままにしていては、根本的な治療にならないという専門家がいます。私のその通りだと思います。


この程度の警鐘で、医薬品の使用量が、増加していては、国策である医療費の抑制改革に逆行するではありませんか。それよりなんといっても、通り一遍の生活習慣指導しかできず、安易に薬を出す医療機関のレベル・モラルが問われるのではないでしょうか。薬が必要になる前に、付帯施設などで受診者の生活習慣を変えられるかどうかが、今後の医療機関の本当の実力になってくるのではないでしょうか。


保健指導だけで患者さんの生活習慣を変えるのは簡単ではありません。今後は医師・薬剤師・看護士・保健師らに対する研修プログラムの検討も必要です。また、保健指導を行えば本当に心筋梗塞などを予防できるかどうかのデータも少ないので、早急な検証も求められるところです。


メタボリックシンドロームという考え方自体がおかしい?


メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)という考え方自体がおかしいという人もいます。しかしながら、名称は変われど、80年代から同様な複合症候群の存在は、医療界では認識されていた事実です。前例はすでに実証されていて、存在するわけで、急に降って沸いてきたような概念ではないのです。その内容は、食習慣・生活習慣・環境因子等で少しづつ変化をしています。

名称 時期・提唱者 仮説 疾患・症状
内臓脂肪
症候群
1987年
藤岡・松沢ら
インスリン抵抗性が起こる背景
には、内臓脂肪の蓄積が関連
しているという考え
1内臓脂肪蓄積
2耐糖能障害
3インスリン抵抗性
4高血圧症
5高中性脂肪血症
シンドロームX 1988年
Reavenら
高インスリン血症の背景には、
インスリン抵抗性があり、虚血性
心疾患につながっているという考え
1耐糖能障害
2高血圧症
3高中性脂肪血症
4低HDLコレステロール血症
5インスリン抵抗性
死の四重奏 1989年
Kaplan
右の症状を合併したとき、
虚血性心疾患を起こし
やすくなるという考え
1上半身肥満
2耐糖能障害
3高中性脂肪血症
(高脂血症)
4高血圧症
インスリン
抵抗性症候群
1991年
De Fronzo
高インスリン血症などの病気
には、インスリン抵抗性が誘因
となっているという考え
1糖尿病(インスリン非依存性)
2肥満症
3高血圧症
4高中性脂肪血症
(高脂血症)

各国で診断基準が異なる現状で、なぜ日本の厚労省は急ぐのか?

厚労省がメタボリック・シンドローム(内臓脂肪症候群)の対策に、早計ともいえるほど力を入れる背景には、2025年には現在の28兆円から56兆円に膨張すると予測される医療費の抑制に、死因の約3割を占める心臓病と脳卒中の予防が欠かせないというお国事情があるのです。生活習慣病の治療費や薬剤費を2025年までに2兆円削減しなくてはならないのです。


今回の厚労省の強いすぎるともいえる警鐘は、あくまで糖尿病などの生活習慣病の予防が目的です。予防できる段階の人を早期に発見することと、該当者に自覚をもってもらい、生活習慣の改善のキッカケになれば成功といえるのではないでしょうか。


メタボリック・シンドローム(内臓脂肪症候群)の統一の診断基準を、昨年4月に提唱したのは日本内科学会。今回、異を唱えているのは日本糖尿病学会の先生がた。学会間の派閥もあるのでしょうか。


いづれにしても、内臓脂肪は、皮下脂肪に比べ、運動で減りやすい・燃えやすいのです。100cmの腹囲をたった3cm減らすだけでも、病気の危険は確実に減少します。お腹回りが気になる人は、軽い運動からでも始めてみませんか。

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2006年08月02日 18:43